大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)48号 判決 1977年12月07日
泉大津市板原五四二番地
原告
藤原正雄
同所同番地
原告
藤原尚一
泉大津市二田町一丁目一五番二七号
被告
泉大津税務署長
塩見澄夫
右指定代理人
平井義丸
同
久木田利光
同
神崎勝
同
橋本忠彦
同
藤島満
主文
原告らの昭和四八年(行ウ)第四八号事件の請求をいずれも棄却し、昭和五〇年(行ウ)第四八号事件の訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
(昭和四八年(行ウ)第四八号事件)
第一当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
(一) 被告が昭和四七年一月二七日原告らに対してなした、原告藤原正雄については、相続税額を一、四七六万一、〇〇〇円(但し、昭和五二年四月二六日付再更正処分により減額された後のもの)とする更正処分中八二三万八、六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額を三二万六、一〇〇円(但し、前同日付変更決定処分により減額後のもの)とする賦課決定処分並びに原告藤原尚一については、相続税額を八九八万六、〇〇〇円(但し、前同再更正処分により減額後のもの)とする更正処分中二一九万円を超える部分及び過少申告加算税額を三三万九、八〇〇円(但し、前同日付変更決定処分により減額後のもの)とする賦課決定処分をいずれも取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一、請求原因
(一) 原告らは昭和四六年三月一四日被相続人藤原六右衛門の財産を相続したので、相続税につき一一月二二日別表(一)修正申告額欄記載のとおり修正申告をしたところ、被告は昭和四七年一月二七日同表更正処分欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下これらを本件処分という)をなした。原告らはこれを不服として被告に対し異議申立をしたが棄却されたので、同年七月一三日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は昭和四八年三月一五日付で、原告藤原正雄については請求を棄却する旨の裁決、同藤原尚一については同表裁決欄記載のとおり本件処分の一部を取消す旨の裁決をした。その後被告は原告らに対し昭和五〇年九月十九日同表再更正処分<1>欄記載のとおり再更正処分及び過少申告加算税変更決定処分をなし、さらに、昭和五二年四月二六日同表再更正処分<2>欄記載のとおり再更正処分及び過少申告加算税変更決定処分をなした。
(二) しかし、本件処分(昭和五二年四月二六日付再更正処分及び変更決定処分により減額後のもの)における別表(二)記載の相続財産(以下本件土地という)の評価は過大であり、違法なものであるから、本件処分中更正処分については原告らの修正申告額を越える部分、過少申告加算税賦課決定処分についてはその全部の取消を求める。
二、請求原因に対する答弁
請求原因(一)は認めるが、(二)は争う。
三、被告の主張
(一) 相続財産の評価について
相続財産の価額は、特別の定めある場合を除いて、当該財産の取得の時における時価によることとなつており(相続税法二二条)、時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価額をいうのであり、これは客観的交換価値と解される。国税庁長官は、右のような時価を実務上可能な方法で、統一的になるべく容易に、かつ、的確に把握するという観点から相続税財産評価に関する基本通達(以下評価通達という)を定めており、被告は右評価通達に基づいて価額を算出している。
(二) 農地の評価方法について
農地の評価は評価通達三四により、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地に分類し、それぞれ異なる評価方法によつて評価することになつている。
原告らが相続した農地はいずれも泉大津市内にあり、昭和四五年六月二〇日都市計画法による市街化区域に指定された地域であつて、評価通達三六-三の市街地周辺農地に該当する地域である。そして、このような農地は、市街地に近接する地域にあつて宅地代の傾向が強く、農地としてより宅地の価額に類似する価額で取引されているのである。
市街地周辺農地の評価は、評価通達三九により市街地農地であるとした場合の価額の一〇〇分の八〇に相当する金額によつて評価することとなつている。そして、市街地農地の評価は、評価通達四〇により、付近にある宅地の価額を基礎として、道路からの距離、形状等の条件を考慮(当該評価地が<1>道路に面した間口に比して奥行が極めて長い、<2>奥行が極めて短かい、<3>不整形である、<4>道路に直接面していなく他人の土地を通らなければならない等特殊な状態にあるものを補正すること)し、その農地が宅地であるとした場合の価額を求め、その価額からその農地を宅地に転用するとした場合に通常必要と認められる造成費に当る一定の金額(毎年国税局長が定める)を差し引き、評価するのである。
(三) 本件土地の評価について
本件土地の評価の計算過程は別表(三)のとおりである。
(四) したがつて、本件処分における本件土地の評価は正当であり、本件処分に何ら違法はない。
四、被告の主張に対する原告の反論
(一) 本件土地の形状は次のとおりであり、この点を考慮しないでなされた本件土地についての評価は不当である(かつこ内の単位はメートル)。
1 細長い土地‥‥‥1(一〇九×一一・二)、8、9(いずれも一〇二×一一・四)、13、14、(いずれも一〇六・五×九・四)
2 盲地‥‥‥‥‥2、3、4、10
3 不整形(三角形)地‥‥‥12、17
4 排水不能地‥‥‥18、19
(二) 被告主張の近傍宅地はすべてその評価額をもつて本件土地の評価額算出の基礎とするには不適当な土地である。
(昭和五〇年(行ウ)第四八号事件)
第一当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
(一) 被告が昭和五〇年九月一九日原告らに対してなした、原告藤原正雄については、相続税を一、四八二万八、四〇〇円とする更正処分中八二三万八、六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額を三二万九、四〇〇円とする賦課決定処分並びに原告藤原尚一については、相続税額を八九九万四、五〇〇円とする更正処分中二一九万円を超える部分及び過少申告加算税額を三四万〇、二〇〇円とする賦課決定処分をいずれも取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告らの訴えをいずれも却下する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一、被告の本案前の申立ての理由
被告が昭和五〇年九月一九日原告らに対して行なつた相続税の更正処分及び過少申告が賦課決定処分(以下これらを本件再更正処分<1>という)は昭和四七年一月二七日になした更正処分の課税標準及び税額を減少させる処分であつて、原告らに何ら不利益を与えるものではないから、訴えの利益が存しない。
二、請求原因
昭和四八年(行ウ)第四八号事件請求原因(一)(但し、「昭和五二年四月二六日別表再更正処分<2>欄記載のとおり再更正処分及び過少申告加算税変更決定処分をなした」との部分を除く)、(二)(但し、「本件処分」とあるを本件再更正処分<1>に訂正する)に同じ。
理由
(昭和四八年(行ウ)第四八号事件)
一、原告らが昭和四六年三月一四日被相続人藤原六右衛門の財産を相続し、相続税につきその主張のとおりの修正申告をしたところ、被告が昭和四七年一月二七日本件処分をしたこと、原告らはこれを不服として被告に対し異議申立をしたが棄却されたので、同年七月一三日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は昭和四八年三月一五日付で原告らに対しそれぞれその主張のとおりの裁決をしたこと、その後、被告らが原告らに対し昭和五〇年九月一九日及び昭和五二年四月二六日に原告ら主張のとおり再更正処分及び過少申告加算税変更決定をしたことはいずれも当事者間に争いがない。
二、本件処分における原告らの相続財産の評価につき当事者間に争いがあるのは本件土地に関してのみであるので、以下本件土地の評価につき判断する。
相続財産の価額は相続税法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得時における時価によることとされている(相続税法二二条)。ところで、いずれも成立に争いのない乙第一ないし第三号証及び証人藤田義則の証言によれば、被告は相続財産の時価を算出するに当り、国税庁長官の評価通達及び大阪国税局の「相続税財産評価基準書」(以下評価基準という)によつていることを認めることができる。そして、これらの評価通達及び評価基準の内容を検討すると、右の通達、基準は国税庁あるいは大阪国税局が各種の調査事績に基づいて相続財産の時価を評価するために一般的に定めたものと解せられ、これらの評価方法はその具体的適用が正しく行なわれるならば、相続財産の評価の一方法として妥当性を有するものということができる。
そこで、本件土地についての右評価通達及び評価基準の具体的適用につき検討するに、被告は本件土地は市街地周辺農地に該当するとしたうえ、本件土地のうち1、10ないし14、17ないし19については、評価通達、評価基準に定める算式により、近傍宅地の坪当りの固定資産税評価額に一・三を乗じた価額を基礎に当該土地についての各種の調整をし、これから宅地造成費を控除して当該土地が市街地農地であるとした場合の価額を算し、この八割(小作地の場合はさらにその六割)をもつて当該土地の評価額としており、また、本件土地のうち2ないし4、8、9(いずれも公道に接していない土地)については、評価通達、評価基準に定める算式により、当該土地と公道に接する土地をあわせて前同様にして評価した価額から公道に接する土地の価額を控除した価額を基礎に盲地補正をなし、これから宅地造成費を控除して当該土地が市街地農地であるとした場合の価額を算出し、この八割(小作地の場合はさらにその六割)をもつて当該土地の評価額としている(別表三)ので、更に右評価方法につき吟味する。
(一) 前掲乙第一ないし第三号証及び証人藤田義則の証言によれば、本件土地はすべて市街地周辺農地であり、その価額は、本件土地が宅地であるとした場合の価額(付近にある宅地について倍率方式によつて評価した価額を基本とし、本件土地につき道路からの距離、形状等の条件を考慮して評価した価額)から本件土地を宅地に転用する場合に必要と認められる造成費相当金額を控除して本件土地が市街地農地であるとした場合の価額を算出し、これに一〇〇分の八〇を乗じ(小作地の場合はさらにこれから耕作権割合として一〇〇分の四〇を控除する)て算出すべきものであることが認められる。
(二) 成立に争いのない乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地の近傍宅地の固定資産税評価は被告主張(別表三)のとおりであること、前掲乙第一号証、証人藤田義則の証言によれば、右評価額に乗ずる倍率は相続財産取得の前年の七月一日現在の売買実例、地価公示法に基づく公示価額、不動産鑑定士等精通者の意見をもとに定められていること、前掲乙第一ないし第三号証によれば、本件土地についての右倍率が一・三であること、本件土地について道路からの距離、形状等の条件を考慮して行なわれるべき調整が被告主張(別表三)のとおりであること及び造成費が高さ三〇センチメートル、三・三平方メートル当り五四〇円であることがそれぞれ認められる。
(三) 以上認定の事実によれば、被告がなした本件土地についての評価方法においては、前記評価通達及び評価基準の具体的適用が正しく行われているというべきであるから、右評価方法は妥当性を有するものと考えるべきである。なお、原告らは、被告のなした評価においては本件土地の形状(細長い土地、盲地、不整形地等)が考慮されていないから不当である旨主張するけれども、右評価が右形状を考慮したうえなされたものであることは既に認定したとおりであるから、原告らの右主張は失当である。
したがつて、被告の本件土地の評価は正当であり、本件土地の過大評価を理由に本件処分が違法であるとする原告らの主張は理由がない。
(昭和五〇年(行ウ)第四八号事件)
被告が昭和五〇年九月一九日原告らに対して本件再更正処分<1>を行なつたことは当事者間に争いがないが、右は別表(一)のとおり、被告が昭和四七年一月二七日になした更正処分の課税標準及び税額を減少させる処分であつて、原告らに何ら不利益を与えるものではなく、さらに、その後昭和五二年四月二六日再更正処分及び過少申告加算税変更決定が行なわれた(この事実は当事者間に争いがない)ことによりその効力を失つていると考えるべきであるから、原告らには本件再更正処分<1>の一部取消を求める訴えの利益がないというべきである。
(結論)
以上の次第であるから、原告らの昭和四八年(行ウ)第四八号事件の請求をいずれも棄却し、昭和五〇年(行ウ)第四八号事件の訴えをいずれも却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判所裁判官 荻田健治郎 裁判官 辻中栄世 裁判官 吉野孝義)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>
別表(三)(その1)
<省略>
<省略>
別表(三)(その2)
<省略>
<省略>
(注)1.番号は、被告第4準備書面別表3に付した番号を記載した。
2.不整形地補正率及び盲地補正率は、評価通達20の(2)及び20の(3)により30%を控除した残額70%で記載した。(乙第1号証7枚目参照)
3.小作地の割合は、耕作権の割合の40%を控除した残額60%で記載した。(乙第2号証2枚目の2.なお書参照)
別表(三)(その3)
<省略>
<省略>
(注)1.番号は、被告第4準備書面別表3に付した番号を記載した。
2.盲地補正率は、評価通達20の(2)により30%を控除した残額70%で記載した。(乙第1号証7枚目参照)
3.小作地の割合は、耕作権の割合40%を控除した残額60%で記載した。(乙第2号証2枚目の2.なお書参照)
4.8.8平方メートル(1坪)当りの造成費1,620円の算出の「土盛の高さ」は900mである。